普通な44日目

「なんだか眠い、目が閉じそうになる」と母が言う。
そりゃそうだろう、昨日も一昨日も夜遅くまでゴソゴソしてるんだから。

私は昨日はパッドではなくパンツ履かせたもんだから、睡眠不足も相まって22時くらいから5時まで寝巻きにも着替えずに爆睡してしまったので快適。
トイレに立たれている気配はあったけどパンツだしどうとでもなれ、だ。
さすがに朝は腰のみの防水シーツまで濡れていた。夜用7回分パンツじゃ足りないんだよな…

デイに行った後だと気が立っているが、午前は控えめでおっとりの母。
でも、父の部屋で片付けをしてる間にオレンジを一個食べられ、作り置いてあった味噌汁を勝手に捨てられてしまっていた。（オレンジはわざと見つかってもいいように午前中オヤツとして残しておいたもの）

父の部屋で片付けをしていた時に、叔父（母の弟）からメールが来ていた。妻も会いたがっていて、仕事の休みが調整できたら連絡してくれると言う。

私はこの、叔父の奥さんが苦手だ。
弾丸のようにワーっと勢いよく喋る人で、私が遠方に引っ越した事を「なんで両親が色々困る年齢になってから離れたの？！」と責めたててきた人。目先の情報だけ見て世間の常識に照準を合わせ、自分が正義とばかりに説教してくる、そんな面倒くさい人だ。

叔父のメールでは、その人の母親が高齢になり一人で暮らせなくなったので2年前に呼び寄せ、同居を開始したが、「心が通じ合わなかったので」介護施設に預けざるをえなかったという状況が書かれていた。

私には説教たれたくせに、自分は介護を根負けした人からはもう二度と偉そうに言われたくない。あの頃は私は心が参っていた時だったので抵抗も出来なくて思わずその場で涙ぐんでしまってお話にならなかったけど（叔父が妻をたしなめた）、今の私が余計なお世話を言われたら噛み付き返すわ（笑）

今日の訪問診療は17時になっても来ない。
15時半から来客と聞かされて、緊張して構えっ放しの母が疲れてきている。
こちらから電話をかけたら20分以内に来られたので忘れられてたかも。

丁度母の妄想タイムが炸裂していて、半泣きになりながら「困った、みんなダメなの。私ここにいたらダメって言われてるのかな。死ねってことかな」と言い続けている。
母を診察した医師がすぐに上唇の転倒跡に気付き、母が呼吸が苦しいと訴える胸部を触診始めた。
胸部脇、肋骨を触られ、すぐに痛い！と悲鳴をあげる母。
どうやら転倒した際に打っていたらしい。そんなに痛がりはこの1週間しなかったので気付かなかった。
2週間くらい痛いねー、と言われていた。

15分おきの頻尿と、やたら飲み物を飲みたがる相談をしてみた。デイの人から過敏性膀胱かもしれないからお医者さんに聞いてと言われてる件も。
そしたら、頻尿を抑える薬は認知症が進行する可能性があるのでもう気にしないであげてくださいと言われた。
飲み物もその都度飲みたがるなら、構わないと。
運動だと思えばいいということを言われた。
そして帰っていった。

余談。
お医者さん60歳前後と20代男性助手が来た後、玄関の靴を揃えようと思って靴を眺めたら、オッサンサンダルと若向けの細みな白黒薔薇柄のCORCHのデッキシューズがあって、ブランドなら先生の方か…とも思いつつ余りの若向けデザインとオッサンサンダルの対比ぶりで、なんとなくオッサンサンダルを中央寄りにして置いてみた。
しかし後で靴を履いた時にブランドサンダルを先生が履いたのでやっぱりかとも思いつつギャップがおかしかった。

夕食時間になってしまったので慌てて作る。
最初ゆっくりでいい、なんて殊勝な事を言った母が1分後には一転、「早く食べさせて！」と悲鳴をあげる。
先に適当な小鉢を出しておいてメインの茄子と玉ねぎと牛肉炒めを作ったがあまりに急かされ続けたので焦り、一部が焦げてしまった。

なんとか食事も終わったけれど、母がまたすぐさまソワソワし始める。
「台所の仕事をしてくださった人〜！名前を教えて下さ〜い！」と誰もいない部屋に行って叫び続けたり、ベッドに戻ったりを繰り返している。

「困ったなー、困ったなー、名前が思い出せない。ねえ、あの人の名前知らない？」
「台所仕事してたの私だったけど…」
「違う、別の人」こちらの説明は否定して聞きゃあしない。
「だって、さっきまで横にいたじゃない」
（それ、横で食べてた私なんだけど…）

また部屋に行き「看護婦さーん！眠らないでちょっと来てくださーい！教えて頂きたい事がありまーす！何処にいるの看護婦さーん！」

病院と間違えているらしい。
私が母のベッド横に万年床を敷いて時々ゴロゴロしているせいで、私のことは同じ病室に入院している患者（妹）だと思っているっぽい。
そして、お世話をしてくれる看護師さんが別にいて、ご飯を出してくれたりしていると思いこんでいる。