母の担当者会議

相談員さん、栄養士さん、介護士さん、看護士さんの代表と会議。
言うなれば母の今の状態の情報共有、問題点の相談と解決みたいな会議で、一ヶ月に一度あるらしいが初回は家族も参加、以降3ヶ月に1度、半年に一度…というふうにしていくものらしい。
その初回会議があったので特養に行く。

30分早く着いたので、母の様子を見に行く。
母は談話室のテーブルで、お茶のコップを前に、背中を丸めて縮こまるように座っていた。
起きて目を半分開いてはいる状態だが何を見ているのか、聴こえているのか。
声は掛けずに母の近くに座り、なるべく視界に入るようにしてみると、少し顔を上げかけたがこちらを見ずにまた目を伏せてしまう。
母の元を訪れて、無視されたのは初めてだ。

具合が悪そうなので、骨ばった肩を撫で続ける。無反応な表情。
30代後半くらいの男性介護士さんが来て、最近の母の状態を話してくれた。

ここ2週間くらいから、食事介助拒否が強くなってきたらしい。
スプーンを口に運ぶとガチッ!と噛み付いて、もう口を開けてくれもしないらしい。
なので、「自歯なので、このままこういう状態が続くと、前歯が4本くらい折れてしまうかもしれません」と言われた。
こういう拒否の仕方をする人はいるにはいても、入れ歯だったししてその場合は噛まれてもスルッとスプーンが抜けるので何とかなるそう。

でも、今日のおやつの甘いアイスクリームは、「甘いですよ〜」と言ったらそれまでガツンと閉じていた口をひらき一口食べてみて、それ以降はスプーンを噛むこともなくペロッと完食できたらしい。
母は好き嫌いで食べるか否かを決めているようだ。そういう事もあったからと介護士さんは言う。

「自分の体感としては、ご自分の意思で食事を拒否をされているように感じます。口に食事を運んでしまえば、(本能で)それを飲み込んでしまう方がほとんどなので。ここまで拒絶されるということは自分の意思があり、拒絶していると」と男性介護士さんは言った。

何かわかる気がする。
同居介護していた時の、徹底した入浴拒否。
母は、何かしらの気に入らない理由があると、とことん「自分には不要!」という主張をしてきたから、同様に発揮しているんだろう。

会議の時間になり、玄関近くの応接の間に行く。
先程の男性介護士さんも来て、みんな集まってきた。
まず看護士さんが弾丸トークをする。
「もの忘れ外来の先生は、自分の範疇の見解(認知症視点)から整形外科はもう行っても遅い、不要という話をされたと思うんですけど」
看護視点からは、医者に言われたからって諦めないで欲しい、痛みを少しでも軽減してくれる医者を探し続けて欲しいという内容を熱心に話された。
手首の曲がりと腫れ、痛みは可哀想だから、せめてあと整形外科には診てもらってから次の手を考えて欲しいという。それはもっともだ。

でも、この人が家族に訴えたいことは、診てくれて何とか改善しようとする医者が出てくるまで頑張って欲しいということだ。
個人病院で診てもらっても結局大病院に投げられるからね…という事を言ったのもこの人だ。わかってるんじゃないか。

介護車に乗り込み連れ回す、待合室で待たせる母のしんどそうな様子、どうせ診てもらっても良い事は言ってもらえないんだろうという絶望、採血の針は痛いし検査のたびごとに車椅子からベッド等に体を移動させられるのもしんどい。
看護士さんはそういう、診察に至るまでの苦痛は考えないのか、何かしらの結果を得るためなら当然の辛抱と思っているのか。
目先の「痛みを取ってあげたい」ばかりを気にして、その他の苦痛は知ってか知らずか。何が本人のためなんだっていう思いだ。

私は可愛がってたペットが死ぬ寸前まで連れ回して成果の無い検査の負担を掛けさせた事を後悔しているから、もう同じ事を繰り返すのは嫌なんだ。
人と同じように出すもも何ですが、と、ペットの例を出して訴えてみたが、この場の人たちに響いたかは判らない。
とりあえず整形外科に連れていくことは私も了承して、決まった。
思うような結果が得られなくてこれ以上「また他をあたればどこかには診てくれるところがあるんじゃないか…」というようなら抵抗してみようと思う。

とりあえず看護士の人の意向に沿うだけ、内科・眼科・脳神経内科・もの忘れ外来と、一通り回ってきたんだから。
眼科を覗きそれらの科からは皆おなじように「歳相応。何かをよくしようとすると何かが下がるのでこのままの維持が望ましい」と言われてきた。

直球で言われはしないが「訪問診療されてるんでしょ? そちらからの所見や質問も特になくいきなり大病院に連れてこられてもねえ…経過をずっと診てきたわけじゃないんだし(普段を知らない家族の付添じゃ)情報が足りないし今ここで見える範囲の診断しか出来ない」ということは言われたわけだし。

通院はさておき、いま採れなくなってきている栄養価、食事はどうするか?の話を栄養士さん、介護士さんを中心にしはじめた。

現在はきざみ食(一口大)で、それは一目で何を食べているかがわかる、美味しさが伝わるものだが、やわらか食を夜から試してみるという話になった。
でも、やわらか食というのは全てミキサーにかけて見た目は悪いし、しかも同じ栄養価をとるためには量が多くなって、食事介助する介護士さんの負担も増し、苦行に近いものだ。
やる前から期待はできない。
だから、もうすぐにでも、その次の段階の高カロリー食(糖分も高く糖尿病にはあまり良くないらしい)の段階に移行するだろうし、さらに次となると血管を確保して栄養点滴か、胃瘻を作るという候補も出てくるという説明を受けた。
胃瘻は施設で対応可だが、栄養点滴となると療養型施設に行ってもらうしかなくなるという。
でも療養型というのはつまり病院だから、特養みたいに職員さんたちからの声掛けはなくなるし、ただ天井を見つめて寝たきりになるからそれも人間らしい生活をして考えるならどうなのか?と思いますと看護士さんが言ってくる。
(こういう言い方されるとなんとなく、胃瘻を勧めてきているのかな…と感じる)

私は入所契約時の延命治療に関することシートには全て「しない」にチェックマークを付けている。
それを見ながらやっぱり看護士さんはどことなく不満そうだ。ま、看護士さんという、決して救命を諦めない仕事の人はそうなってしまうんだろうけど。

不満そう、と見て取ったので「もうちょっと若くてしっかりしてた頃の母の意思を尊重してそうなっています。生きるためだけに不味いものを我慢して食べて、生きるためだけに頑張ってまで生きたくはないと言っていたので」と念を押す。
すると、看護士さんも、「今は胃瘻を作った後で後悔されるご家族も多く、あまりこの方法を採られなくなってきています」とは言ってきた。

先はそれなりに覚悟をして考えておきつつ、まずは一段階ずつ出来る事を試すということで会議は終わった。
まず、やわらか食、整形外科通院だ。