母の面会/父の入院可能性?

母はズボンが短くて、車椅子に座ると脛が出て寒そうなのでハイソックスを買っておいた。
それと、アイスクリームとかプリンみたいなお菓子大歓迎と言われていたから買って持っていった。

今日は施設でお祭り(盆踊り&出店)を企画しているらしく、職員は出払っていてガラガラだった。
母は部屋のベッドで寝ていて、目をしっかり開けていた。

「来たよ〜」
あまり表情は変わらないが、目の開き具合というか、眉毛のしかめ?で明るい表情なんだな、とわかる感じ。
例えるなら、「ウォレスとグルミット」のグルミットの表情とか、「ファインディング・ニモ」のニモとか眉毛は無いけど目の回りの筋肉の動きで表情がわかる、そんな感じ。

「靴下持ってきたよ」
「そう」
母は頑張って声に出して返事をしてくれた。

「今日はね、外は暑いよ。夏だからね」
「…」
母はじっとこちらの目を見るだけだ。

あっという間に、なんと声を掛けたらいいのかわからなくなってしまった。
それに、あっという間にこんなふうに弱ってしまった母を目の前にすると、泣けてきそうになるんだ。
そんな表情を悟られてはいけない、また、「早く帰りなさい」とか言われてしまう。
部屋をキョロキョロしてみたり、タンス整理をしてるふうにしてみたり、職員を探すような素振りをしてみせる。

珍しく母から質問を振ってきた。
「ここに来るの、好き?」

そんな質問が出てくるということは、母はいまいち、職員さん(の一部?を)信用できないでいるんだろうな。
それとも、私が嫌々来てると思って思いやってくれてるんだろうか。

「うん、ここは、いい人いっぱいいるからね」
「…」
なんとも言えない無表情でこちらの目を見続けてくる。

「そうだ。○○さんのおにいさん、YYさんわかる? △△YYさん」
うんと頷く母。
そんな母を見て、ちょっと躊躇したが、はれもの扱いにしてはいけないと思い直して正直に言った。
「XXさん、一ヶ月くらい前に亡くなったよ」
「…!…そう」
久しぶりに、母が状況を飲み込んでショックを受けた表情を見た。
理解している。
「(兄は)どうしたの?」
「一年くらい前に転んでね、治らなくてずっと寝込んでいたんだけど、だめだった。転ぶのは、怖いよ」
母はよくわかる、という感じに頷いた。
「○○さんの弟。XXさん。わかる?」
頷いたので続ける。
「XXさんからね、○○さんに亡くなった事を伝えてって言われたの」
母は一呼吸おいてから言った。
「…ありがとう」

久しぶりに、普通のやりとりができた感じだ。ハタから見れば、認知症の人だと思わないだろう。

「もう帰る?」
「もうじき帰るよー」
なんだかいつもの「早く帰りなさい」と急かされそうな雰囲気だ。

そこにちょうど介護士さんが来たから、持ってきた靴下を渡したり、持って帰ったほうがいいものがあるか、何か必要なものがあるかを訊いたりした。
脚の下に挟むクッションが欲しいと言われた。
めくりあげた布団の下から、母の素足が見えたが、足首から先がパンパンに腫れていた。足の指もだ。
脛の浮腫は細くなったかなと思えていたけど、末端はこんなことになっていたんだ…通院の時は靴下に隠れて見えていなかった。
買ってきた靴下、余裕があるやつを選んだつもりだけど履けるかなあ…

今日の介護士さんは、母の事を「のびちゃん」と呼び掛ける人だ。
そう呼ぶと、本名を呼ぶより反応がよく返ってくるから呼ぶそうだけど、今日も呼んでいたので由来を訊いてみたら、申し訳なさそうに教えてくれた。
想像していた通りというか、やっぱりドラえもんののび太だった。メガネをかけているから(似ている)だとか。
反応が良くてコミュニケーション取れるからとはいえ、申し訳なさそうにする辺り、失礼な自覚があるというか実際良い意味ではないなというかかなり失礼だよな。

後から考えると、そのうち自分の名前もわからなくなって、そっちの名前で刷り込まれてもヤダな。
なんかじわじわ腹がたってきた。

とりあえず介護士さんにはいつもお世話になっているお礼を述べて、母には「今日は帰るね、また来るよ」と言うと、「(来てくれて)嬉しい」と言ってくれた。
こういうやりとりも久しぶりだ。
短い滞在時間なら歓迎してくれるのかな。

帰ってくる最中、父の施設の看護士さんから電話がかかってきた。
声が切羽詰まったように感じて、何事かとヒヤヒヤしたが、実際あまり内容は芳しくないものだった。
「熱が出ていたりということはなくて、ただ脛の水疱が破れて、痛みがあって、腫れていて、本人の元気が少し無いんです。それで原因がわからないので、一応経過を様子見になっていますが、最悪悪化した場合、入院となる場合がありますのでお伝えのため連絡しました。それと、もし万一救命措置ということになった場合、延命をご希望とされないのは変わりがありませんか?」
「…はい。何かがあってご連絡いただければ、すぐにでも1時間半くらいで行けると思いますので」
「月曜日には、訪問診療のお医者さまに診せられるので、この土日の経過などで診断を仰ぐつもりです」
「わかりました。よろしくお願いいたします」

この年令になってくると、いちいち延命措置確認をしてくることになるのでギョッとするが仕方ない。

しかし、母も脛から下が腫れ、共鳴するように父も脛に浮腫を抱えるようになって、どちらも油断がならない状態でいつどんな呼び出しが来るかわからず、私も気が休まらない。

しかも、義母さんがおとといから腕が痛いと言い出している。
本人は「筋肉痛というか腱鞘炎かな?」と言っているが、このタイミングでそんな負荷がかかり始めたといったら私のことしかないだろう。
私が滞在してお世話をかけることで、腱鞘炎というか負荷がかかっているのでは、と思う。
義実家へのご厄介も、いくら神経質な義母さんといえど任せてはいけないように思える。

困難がいっぱいだ…私が会社員時代に、納得してもらえる退職理由提示しなくちゃと、「介護」とか縁起でもない嘘理由ついたのが罰当たったのかな。