母、ようやく特養に本入所できた

本入所契約の日になった。
更新された介護保険証、契約に必要な印鑑などを持ち、10時に到着。
約束の時間は10時半からだったが、その前に母の顔をみておこうと思った。

だいたい三週間ぶりだろうか。
団らん室のテーブル前の車椅子に座った母は、目に見えて弱っていた。
表情はちっとも安らかではなく、不安と恐怖が混じったような感じで、目が見開き気味、眉が釣り上がり気味、口を少し開き、今にもワーッと叫びだしそうな表情で固定されてしまっている。
おそらく、自分がいよいよ何も思うように出来なくなっていくのを感じとり、寿命が刻一刻と迫っている恐怖と戦っているんだろう。

とにかく怖がりの母。
若くて元気な頃は、墜落怖さに飛行機を拒絶し、つい最近まで達者に話せていた頃までは暴漢に襲われるからと日没後の屋外を恐れていた。
そして今年の2月からの同居生活では、転倒した時になどは、死にたくない!もっと生きたい!と叫び続けた。

それがもう、出来なくなっていくことが増え、痛いこと苦しいことが増え、気が気でなくなり正気を保っていられない。そんな感じが伝わってくる。
他の入所者さんは安らかな表情だが母だけ緊迫に満ちて、精神疾患を持っている人だなと一目でみてとれる。

声をかけると、私のことはすぐ認識できたようだった。
だけど、いつものように、「久しぶりね。よく来てくれたわね」だとか、「来てくれて嬉しい」という言葉は出てこなかった。
短い言葉を出すだけで、ほとんど意思疎通は首を振る事で答える感じだ。
私はテーブルに乗せられた母の右手が大きくブルブル震えているのに気づき、手と手首を暖めるようにさすった。

すると母は幾分表情が和らぎ、座ったままコックリコックリうたた寝を始めた。
契約の時間まで15分くらいずっとそうしていた。
約束の時間に近づいた頃、うたた寝をしていた母がガクッと椅子の肘掛けから落ちそうになり目が覚めた。
私はさするのをやめ、「そろそろ、用事があるから行くよ。また来るね」と声をかけた。
そこで初めて母は、「ありがとうね」とだけわりとしっかりと発声した。
認知症でも、理解できているんだろうか。これは同居をしていた時から時々感じている。

本入所の契約は、まず最初は管理栄養士さんとの面会、栄養ケアマネジメントの説明を受けた。
平たく言うと、「うちは食事摂取に係るサービス提供としてこんな内容を計画、実行します。そのためには介護サービスとして加算(費用の追加)があります」という内容だ。
説明を受けて、最後に同意しましたとサインをする。

次に来たのは介護支援専門員さん(初めて耳にする職業)で、施設での生活などの説明を受け、施設サービス計画書を渡された。
以前だったらケアマネさんが渡してくれていたサービス計画書を、どうやらこの人が作成するらしい。

最後に来たのが一番やりとりをしていた生活相談員さんで、いよいよ本入書の契約書の説明、取り交わしを行った。
契約書はほぼショートステイの契約書と同じとのことでかなり説明項目が省かれたが、それでも契約に係る三人の人との面談を終えるともう、1時間半が経過した。

父の本入所契約では30分ほどだったし相談員さんとの会話しかなかったから、こんなに大掛かりになるのは初めてで、施設によっても色々あるのだなと思った。

相談員さんとは、書類記入をしながら少し雑談をした。
この施設に来る途中、きれいな一戸建てのお家があって、名字がこの施設の施設長と同じだったけれども関係ありますかと訊いてみた。
(名字は、そう多くある感じではないので気づいたのだ)

そしたら、施設長の家ではないが○○姓はここの地主さんなので血縁者だと思いますという返答が返ってきた。
なるほどね。だから、特養と、もうひとつの支援系の施設が広い敷地のあちらとこちらで建っているんだ。

なんとなく、そういうバックボーンを訊いておくと、どんな感じで運営がされているんだろうなという想像がしやすいように思う。想像の域を超えないが。

契約が終わったがお昼に差し掛かっていたので母には会わずに帰宅することにした。

母の右手の大きな震えと、足が浮腫んでしまって痛みが出て自立歩行できにくくなっている件があり、急遽明日病院付添になることになった。
また朝が早い…こちらに10時に来るためには家を7時半に出ないといけないのだ。

でも帰りは義実家に寄り、父の健康診断結果の郵送物を受け取る。(もう、義実家宛にさせてもらっているのだ。緊急連絡先の家は近所でなくてはいけないので…)

父の方も、やれ要精密検査だなんだと書いてあって面倒くさい事が待っている。
今後どうしたら良いか相談したくて電話してみたが、相談員さんは休みとのことだった。
何かいつも両親の特養共、担当者さんとは縁がなく、用事があって電話をかけた日は、該当の人がいないことが多い。
意識的に平日に連絡してもだ。うまくいかない…

義実家にいる間に、先程の支援専門員さんから連絡があり、本入所の際の持ち物で足りないものがあるという連絡がきた。
持ち物表、見たつもりが、すっかりショートステイと本入所で持ち物が変わる事を忘れていた。
ショートだとタオル類は貸してくれるが本入所だと持ち込まないといけない。
テイッシュもコップもうがい受けも持ち込み。

義実家を出る時に義母さんとショッピングセンターに寄り、タオルやら買うのに付き合ってもらった。
大荷物になって帰りがますます長く感じ、疲労したけど明日は病院付添があるからその時に一緒に渡せたらいいなと思う…

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